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高田茜さんコラボウェア発売記念インタビュー 後編

一瞬一瞬を輝かせるような、比類ないテクニックと表現力で観客を魅了してきた、プリンシパルダンサー、高田茜さん。彼女との初コラボウェアは好評販売中です。

前回に続き、今回はジュリエットやマリー・ヴェッツェラなど様々なヒロインに命を吹き込む役づくりや、落ち込んでしまった時の乗り越え方、バレエへの思いについてうかがいました。

ダンサー全員で織りなす
ドラマの中に生きる。

ジュリエットは、もうすぐ14歳になる少女。邸の外の世界を知らずに育ったとはいえ、たぶん「何も知らない」わけではないと思います。殺されたジュリエットの従兄ティボルトに、母のキャピュレット夫人がすがりついて泣き叫ぶ印象的なシーンがありますが、二人の関係は、以前からメイドたちの間で噂になっていたかもしれません。そういうことは、きっとジュリエットの耳にも入っていたはず。

だからこそ、パリスとの結婚を強いられたジュリエットは、最後の砦のようにキャピュレット夫人にしがみつくんじゃないかと思うのです。「お母さまだって好きな人と一緒になりたかったはず。私の気持ち、わかってくれるでしょう?」って。でも、その母も助けてはくれず、彼女はみんなに見捨てられて一人ぼっちになってしまいます。

取り残されたジュリエットがベッドに腰かけて葛藤するシーンでは、鳥かごのような守られた世界から放り出され、一人になることへの計り知れない怖さを感じながら演じています。

『マイヤリング――うたかたの恋』のマリー・ヴェッツェラは、17歳でオーストリア皇太子ルドルフと心中した実在の人物です。マリーの人物像をつかむのは難しく、実際に残された手紙を読んだりして、私なりにヒントを探していきました。

マリーはおそらく、信じる力の強い少女だったのではと思います。ルドルフは、身近な人に愛されない、深い孤独を抱えた人でした。マリーは彼との恋にのめりこみ、やがてルドルフが彼女の世界のすべてになっていくのですが、最終的には彼を「救ってあげたい」と思っていたのではないでしょうか。最後のパ・ド・ドゥを踊っていると「彼のすべてを受け入れ、愛したい」という、母性のようなものすら感じます。

「楽しい」という
シンプルな原点に戻ること。

私は3歳の時にバレエを始めました。子ども時代、車の通らない夜道で、よくグランジュッテしていたことを思い出します。ジャンプも、演じることも大好きでしたが、決して得意ではなかったと思います。今考えると、いちばん得意なのはバレエを「続ける」ことかもしれません。注意されたことを、次のレッスンまでに直すこと。そうやって少しずつ前に進んでいくこと。

プリンシパルになってからは、お客さまにもっとすばらしい舞台を観ていただかなくてはと常に考えています。でも、そればかりだとつらくなってしまうので、今はシンプルに「楽しむ」ことに集中するようにしています。楽しめなければ、結局満足のいく踊りはできません。

2023年は故障がきっかけでカウンセラーの先生に話を聞いていただき、様々なことに気づかされました。
好きなことに一生懸命になるほど、今の自分と理想の自分の間に溝を感じて、苦しくなってしまうこともある。そんな時、少し離れた立場から相談に乗ってくれる、信頼できる第三者を見つけることは大事かもしれません。「今、楽しくないなあ」と感じるならそれでいいし、何も間違っていない。先生にそう言ってもらえたことで、私はかなり気が楽になりました。
まず、自分の正直な気持ちに気づくこと。そして、自分に「まあ、いいか」と言ってあげられることが、とても大切なのですね。

故障中も、リハビリで身体が動くようになってきたら、バレエ以外の様々なクラスを楽しんでいます。私は完全なインドア派なのですが、とてもアクティブな友達がいるので、この間HIPHOPのクラスに連れていってもらいました。上手も下手もなく、みんな心からダンスを楽しんでいる。そういう空間はすごく居心地が良いです。

バレエダンサーだからこそ、どんな経験も力に変えて、表現の糧にすることができる。でもそれはバレエだけではないと思い始めました。自分の経験を通じて、誰かの心の痛みを想像し、寄り添うことができるかもしれません。 人生はバレエだけじゃない。でも、バレエが大好きだからここまで続けてきました。 今は踊れる限り踊っていきたい。私にしかできないことを追い求めていきたいと思っています。

Interview:Kaya Sakaguchi

 

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